シャル君と私
ピンポーン、と、チャイムが鳴ったので玄関に少し走るように向かって鍵を開けた。
そこにはコートを着たシャル君が立っていた。
少しだけ頬と鼻が赤い。童顔なシャル君の顔に映える色に、ちょっとかわいいと思ってしまった。
「今日も寒いねー」
「うん、一気にきたよね。」
「あ、これコンビニで買ってきたんだけど食べる?」
「いいの!?ありがとう!」
眼を輝かせて袋を見つめていると、シャル君がくすくすと笑った。それにちょっと頬を膨らませたとたんに、お腹がぐぅ、と鳴った。
寒いのに頬は一気に熱を帯びていくのを感じた。両手で顔を覆ってシャル君から顔を背けると「いつもの事だから気にしてないよ。」と、わけのわからない慰めを言われた。
コンビニの肉まんを食べながら、ソファーに座ってリモコンを掴んでテレビをつけてニュースを見始めたシャル君の前の机に、コップとペットボトルを置いて、隣に座った。
ニュースではスーツを着たアナウンサーが、手元にある紙を見ながらカメラに向かって話していた。
何処かの豪邸の絵画が盗まれたと言っていた。
「あ、これ前にもニュースであったね。」
「ん、そうだっけ?」
「うん。風邪になった時くらいに、盗まれたって。・・・幻影、旅団?」
コップにお茶を注いで、熱くなった口内を冷やすように含む。火傷しそうだったけど大丈夫そうだ。
それにしても、幻影旅団って名前かっこいいなあ。幻影ってなんだろう。幻影のように物を盗むぜ!みたいなモットーがあるのかな。
「あ、もうちょっと見たかったのに・・・」
「きっとまたするだろうし、その時にみなよ。」
「何かみたいものでもあるの?」
「んー・・・あ、そう。これ見たかったんだよね。」
にこっと笑ってシャル君は、昼間に再放送をしている一年前くらいに放送されていたバラエティ番組を見ていた。
私もこの番組は好きなので、肉まんを食べながらシャル君と一緒に見始めた。
コンビニの肉まんを食べおえて、結構お腹いっぱいになったなあと、お腹を摩っていると、シャル君がテレビを消した。
「さてと、腹ごしらえもしたし、家庭教師を頑張ろうかな。」
「え。」
「宿題手伝ってあげようと思って来たんだよ。」
「い、いえ、結構・・・です・・・」
「でも、終わりごろになると助けを求めてくるんでしょ?」
「う・・・終わってなかったら、そのつもり、でした・・・」
「素直でよろしい。」
リビングでくつろいでいたのに、シャル君に引きずられるように二階の自室へ連れていかれて、机の前に座らされてしまった。
昨日の夜に少しだけ進めていて、一応計画通りと言うか、いい感じのペースで処理しているつもりなんだけどな。
「あ、ちょっとはやってるんだ。えらいえらい。」
そう思っているとシャル君がページをめくりながら私の頭を撫でてきた。少し押される感じになって、首が竦んだ。
褒められて悪い気はせず、少し得意げな顔をしてシャル君に澄ましたように言った。
「そりゃあ計画的にしてますから。」
「へー、でも計画だけ作っただけで満足とかしちゃわない?」
「今のところは、まあ、継続出来てるつもり、だけど・・・」
「まあいいや、が分からない所が今のところあるんだったら俺が教えてあげる。」
少しずつやっているとは言っても、面倒な問題は飛ばしながらしていた。
私はなんやかんやと反発しながらも、シャル君の言った通り、最終的にはシャル君を頼る事を前提に宿題を片付けていた。
なんだか、そういうのをシャル君に全部見透かされてるのかなと思うと、シャル君の笑顔が何だか見づらくなってくる。
私の勉強机の淵に手をひっかけるように乗せて、そこに顎を乗せている。膝立ちで椅子に座った私より、シャル君の頭は低い。
「は座標が分かってないよね。」
「うん。全然分からない。」
「方程式は得意だよね。全問正解だよ。」
「えへへ。」
「数学は得意な所があっていいけど、社会は・・・」
「・・・人の名前なんて、あんまり覚えられないもん。」
「はいはい。ああ、国語もちゃんとできてる。さすがに成績が良かっただけはある」
「えへへ。」
「でも理科も埋まってる。でもこれ教科書見ながらしたから覚えて無いんじゃないの?」
「な、なんで分かるの・・・!?」
計算された飴と鞭で、開いていた問題を埋める事に成功した。
ほんのちょっと教えて貰って、後は遊ぼうと考えていた私に対して、シャル君は笑顔を輝かせながら、私を机から離してはくれなかった。
私はあんまり集中できる方じゃないけど、シャル君が分かりやすく、そしてなによりリラックスしながら勉強できたから、何時間も出来たんだと思う。
急かすことなく、考える私を静かに見守ってくれていたと言うか。とにかく、時間をかけてくれた。
「じゃあまたね。。」
「うん、ありがとうシャル君。」
シャル君はうまいなあ、と、マフラーをして手を振っているシャル君に振り返しながら、赤くなった空を見上げた。すぐに暗くなるから、今ぐらいから帰っておかないと駄目だと言ったら苦笑を漏らされた。
きっと私がもう頭が疲れた事を分かっていたんだろうなあ。
曲がり角を曲がって行くまでずっと見送り続けて、シャル君が居なくなった通りを数秒だけ見つめる。
冷たい空気が頬を擦るように撫でる。
態々家にまで来てくれて、勉強みてくれたんだよね。
いつも私が行っていたけれど、何だか悪い気がする。
「・・・次は珈琲とか、出そう。」
とにかく、次シャル君が家庭教師をする時までに、分からない問題は飛ばしながら、宿題を片付けようと決意する。
勉強教えてる時に、夢主が悩む姿を見て楽しそうに笑ってそう。